打ち合わせの前にSPBSに寄る。

前にライブかなにかで目にして少し気になっていたNew Neighbors ZINEが置いてあったので、パラパラめくる。『SMOKE』という妻が好きな映画が特集されている。ポール・オースターというこれまた妻の好きな小説家が原作・脚本をつとめていて、有名だしいい映画なのだが、普通の雑誌で取り上げられることはなさそうなので、こういう作品を扱うのはいいな、と思い最初の一編を読んでみる。

Homecomingsというバンドのギタリストである福富さんが綴った短いエッセイで、ポール・オースターの『ムーンパレス』という小説を軸にオースターの作品についての記憶と、ぼんやりとした焦燥と鬱屈に包まれた福富さんの大学時代がチャーミングに描かれている。

小説のタイトルであるムーンパレスというのは作中で主人公が恋人や友人達と幸福な時期を過ごす中華料理屋なのだけど、福富さんにも愛おしい時間を過ごしたムーンパレスのような中華料理屋があったらしい。
俺にも20代の前半頃、よく通った中華料理屋があった。夜中に腹が減ると朝まで営業しているその店にいって、水餃子を食べた。当時は恋人だった妻との間でその店を恥ずかしげもなくムーンパレスと呼んでいたこととか、店員のそっけなさ、今よりずっと未来が不安だった反面、自分にはもっと色々なことができると思っていたことなんかを文章を読みながら一気に思い出してこっ恥ずかしくなる。我々がいたあの店は小洒落たムーンパレスなんて名前ではなく、餃子市というのが正式名称がある。でもやっぱりあそこはムーンパレスだよな、なんていう至極個人的な気持ちを福富さんが丁寧な言葉で書き留めておいてくれた感じ。これは俺のための文章だな、と思う。
この人が書いた文章を少しずつ集めていきたい、と久しぶりに思える経験だった。

すっかり興奮して別の号も買ってから打ち合わせに。