温見峠という山道をMさんと2人レンタカーで走る。

山の中腹にあるキャンプ場に向かう。
時刻は夜10時をまわったところで、とにかく道が怖い。
切り立った崖に沿って走っていくのだが、本来ガードレールのあるべき場所に縁石しかない。
落ちたら確実に死が待っている。
あまりの恐怖に、Mさんのお喋りに反応できない。
死んだらこれから生まれてくる娘に会えないのが悲しい。
そしてきっと妻が悲しむ。ということを繰り返し考える。
調べるとやはり、何年かに一度事故がおきている道らしい。

用事を済ませ、夜半頃山の麓にある旅館に戻る。
帰りの運転を任されるも、命が惜しくて40キロくらいしかスピードが出せない。
カーナビの指示に従いながらのろのろと走る。
と、突然Mさんが「こんな橋渡ってない」と言う。
確かに渡ったら忘れそうにない大きい橋だ。
そして街灯もないその橋は真っ暗な山奥へとつながっていた。
しかし、カーナビはその先に進めと指示を出し続けている。
橋の脇に車を停め、iPhoneで調べようとするも電波が届かない。
仕方なくカーナビを再起動すると、今度は橋を通らないルートが示される。
「もうすこしだったのに」という類の怪談を思い出す。
それでも慌てずゆっくりと山道を下る。